「紙」(室生犀星):藤田書店がおすすめする詩
紙は白い、
紙のなかにもやもやがある、
もやもやは雪になる、
雲になる、
雲は夕ばえになり
月映えになる、
紙の向ふが往来になり
人がとほる、
人が咳をする、
人はよい声を立てる、
紙は白い、
しめ忘れた雨戸から、
白い月夜がさし覗く、
紙には奥もなければ
底知れぬといふことはない、
だが
たしかに紙には奥があり
白い家がならび
人の話声が終日してゐる
ひそひそと囁かれてゐる。
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