「秋の女よ」(佐藤春夫):藤田書店がおすすめする詩
泣き濡れて 秋の女よ
わが幻のなかに来る、
泣き濡れた秋の女を
時雨だとわたしは思ふ。
泣き濡れて 秋の女よ
汝は古城の道に去る、
項に柳葉がちりかかる
枯れた蓮を見もしない、
泣き濡れて 秋の女よ
汝があゆみは一歩一歩、
愛する者から遠ざかる
泣き濡れて泣き濡れて、
泣き濡れて 秋の女よ
わが幻のなかに去る、
泣き濡れた秋の女を
時雨だとわたしは思ふ、
一しきりわたしを泣かせ
またなぐさめて 秋の女よ、
凄まじく枯れた古城の道を
わが心だとわたしは思ふ。
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